オンラインくずし字解読講座②

 神戸学院大学地域研究センター明石ハウスでは、Youtube「明石ハウスチャンネル」にて「オンラインくずし字解読講座」を配信しています。第2回は、くずし字の初学者がつまずきやすい「字形の違い」を取り上げます。

くずし字の判別と字形の問題

 同じ文字であっても、字形は書き手次第で変化します。手書き文字だけではありません。活字でも、例えば「さ」には、二画目と三画目を続ける形と、離して書く形があります。この差異は通常、どちらも正しいとして扱われます。
 統一された基準のある現在ですらそうなのですから、江戸時代以前の仮名文字に甚だしい字形の違いが見られるのも、また致し方ない状況と言えるでしょう。動画では「を(越)」「す(春)」を例に、同一の仮名の字形にバリエーションが存在する様子を紹介しました。
 しかし、これらには、どの字形であってもその条件を満たす「基本となる点画」が存在しています。これに当てはめると、くずし字は判別しやすくなります。
 また、仮名文字の元となる草書の崩し方は、1文字につき1通りとは限りません。動画では「な(奈)」を例に、現在のひらがなの「な」につながる形と、「る」のように見える形の、2パターンの崩し方について解説しました。
 後者の「な(奈)」は「る」に似た形をしています。ですが、よく見ると「一番上の横線と、その下の斜めの線の間隔が、”る”のそれより狭い」という特徴があります。
 このように、似た字を手がかりとして覚えるという方法も、くずし字の解読に役立ちます。

『源氏物語湖月抄』について

 このオンライン講座で教材に選んだのは、『源氏物語湖月抄(げんじものがたりこげつしょう)』の「明石」の巻です。『湖月抄』は、延宝元年(1673年)の跋文(あと書き)を持つ『源氏物語』の注釈書です。江戸時代の出版文化では、この『湖月抄』のように、内容や語句の解説を付けた形で古典文学が出版されています。語彙や文法のみならず、文化や価値観も時代とともに変化していますので、原文そのままを読むのは当時でも難しかったのでしょう。
 『湖月抄』の著者は北村季吟(きたむらきぎん:1625~1705)です。松尾芭蕉の師として知られていますが、俳諧(俳句)よりはむしろ、和歌や物語などの古典研究の分野で優れた業績を残しています。現在の滋賀県野洲市の出身で、京都で活躍した民間の学者でした。元禄二年(1689年)には「歌学方」として、江戸幕府に召し抱えられています。
 『源氏物語』の研究は、平安時代末期から行われています。鎌倉・室町期には、様々な立場の人々が、多種多様な説を繰り広げていました。季吟の『湖月抄』は、その莫大な研究の蓄積を集成したものなので、著者である季吟独自の見解は控え目です。自分自身の文学的価値観をもとに「もののあはれ」説を打ち出した本居宣長の『源氏物語玉の小櫛』(1799年)とは好対照と言えます。
 そのため、文学研究としての評価は、決して高くはありません。しかし、文学史を考える上では欠かせない存在です。プロの学者には及ばないものの、ある程度の教養を備える人々に、『源氏物語』の原文を読むための環境を提供したのが、この『湖月抄』だったのです。
 また、明治・大正期に至ってもなお、『湖月抄』は『源氏物語』のスタンダードであり続けました。与謝野晶子が『源氏物語』を現代語訳した際にも『湖月抄』が用いられたと言われています。

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