2024年9月18日(水)午後6時から明石市大蔵八幡町の「明石ハウス」にて、地域研究センターの主催する一般向け講演会『大蔵谷ヒューマンサイエンスカフェ2024』が実施されました。
第5回となる今回は、人文学部の鈴木遥講師が「インドネシア沿岸の住文化と資源利用」と題し、自然環境と住まいの関わりについて、現地での調査を踏まえくわしく説明しました。
写真や動画を交えた臨場感あふれる講演に、参加された方々も思わず引きこまれたようで、終了後は活発な質疑応答が行われました。
地域研究センターでは、地域研究・社会貢献の一環として『大蔵谷ヒューマンサイエンスカフェ』を継続的に行っています。
次回は10月16日(水)午後6時から、人文学部の大西慎也教授による講演「戦後日本における理想の教師像の変遷―金八先生はいい先生なのか―」を実施する予定です。ふるってご参加ください(予約、事前申し込み不要)。
【講演要旨】
東南アジアは、アフリカ、中南米などと並び、豊かな熱帯林が広がる地域ですが、20世紀以降は自然資源の生産活動が本格化したため、大きな環境の変化が生じました。
インドネシアも例外ではありません。たとえば食用品や洗剤などに使用されるパーム油を生産するために大規模なアブラヤシ農園が造成されたり、パルプ生産のために本来インドネシアになかったアカシアが植林されたりしています。
それでは、こうした環境の変化が生じつつあるインドネシア沿岸部では、どのような暮らしが営まれているのでしょうか。
一言でいえば、それは「川や海、マングローブとともにある暮らし」です。周辺には樹高30mにも及ぶようなマングローブの林がひろがり、主な交通手段としては船が利用されています。調査先のある集落では、人々はおおむね半分が漁師、残りの半分は船舶関係の仕事で生計を立てていました。
こうした沿岸部で特徴的な住居が「木造杭上住居」です。河口部などの川べりに木の杭を打ちこみ、その上に高床式の木造住宅が建てられています。
木造杭上住居の特色は、家族構成の変化(増減)にともなって増改築が繰りかえされることです。同居の家族が増えたという理由でテラスを増設したり、夫婦の個室が必要という理由で造作をしたり、増改築の過程に家族の歴史が刻みこまれています。
家族とともに、家も育ってゆくのです。
木造杭上住居には、もうひとつ特徴があります。それは「家が朽ちてゆくこと」を前提としている、という点です。
木造杭上住居は水面上に建てられているため、どうしても傷みやすいのですが、なかでも構造の要となる「杭」は水中での腐食や貝・線虫などの被害を受けやすく、数年に一度は補修する必要があります。
労力、費用ともに負担は小さくありません。しかし、人々は「腐朽しやすい建物だから、メンテナンスは常に行う必要がある」と考えているようです。
限られた木材を有効に利用し、メンテナンスを続けながら住まいを維持するという発想は、わたしたちの社会を考える上でも有益な手がかりを与えてくれます。
大量生産・消費型の社会ではなく、自然資源を持続的に活用することのできる社会を象徴するのが木造杭上住居ではないかと思います。
(講演会の写真は人文学部大西慎也教授が撮影し、インドネシアの写真はいずれも講演者が撮影したものです。)