11月6日(水)18時から明石市大蔵八幡町の「明石ハウス」にて、地域研究センターの主催する一般向け講演会『大蔵谷ヒューマンサイエンスカフェ2024』が実施されました。
第8回となる今回は、人文学部の松村淳講師が「近代建築の保存はなぜ難しいのか」と題し、各地に残る近代建築の紹介と保存の困難さについて講演しました。参加者とのやり取りを行いながらの講演は、参加者の探究心を呼び起こし、数多くの意見や質問もあり、それぞれに近代建築の保存について思いをはせているようでした。
【講演要旨】
日本では、明治維新後の近代化は、西洋化でした。一般的には日本における近代建築は、この西洋建築を指すイメージが強いです。辰野金吾による「東京駅」はその代表です。「東京駅」をはじめこのような近代建築は、保存されています。
しかし、今回の講演の対象となる近代建築は、鉄・ガラス・コンクリートで構成された、装飾を廃し、合理性や機能性を重視した設計が特徴の20世紀以降に建築されたモダニズム建築です。保存されている代表例として「大阪ガスビルディング(登録有形文化財)」「代々木体育館(重要文化財)」「香川県庁舎(重要文化財)」などがあります。それに対して保存することができなかった例として「大阪朝日ビル」「都城市民会館」「鳴門市役所旧庁舎」などがあります。これらの近代建築の保存が難しい要因として、老朽化や耐震化へのハードルの高さがあげられました。 そして、明治時代に建てられた西洋建築は保存の方向で検討されることが多いものの、戦後のモダニズム建築は保存運動が奏功しない場合が少なくないと説明がなされました。
保存が難しい中、とられる手段が一部保存・復元されるパターンです。「大丸心斎橋店」「東京中央郵便局」などがあります。ただし、これらのパターンは、前面のみの保存など十分な形での保存になっていない場合も少なからずあるようでした。
また、保存運動の事例も紹介されました。丹下健三による設計の「旧香川県立体育館」です。丹下が「代々木体育館(重要文化財)」を設計する前に建築された、実験的なモデルであり、大変個性的で貴重な近代建築であることが説明されました。しかし、その個性的な面が影響し、保存が難しい状況であるということでした。
モダニズム建築は、場所を選ばず、合理性や機能性を重視しシンプルに存在することを意図して設計されたものです。そのため、その場所を象徴するものとしての価値を見つけることが困難になります。皮肉なことに、モダニズム建築の特徴が、モダニズム建築の保存を困難にしていることが分かってきました。
松村講師は、小樽運河を事例に、保存運動はそのものをそのまま保存することだけを考えるのではなく、その保存すべき対象を活かした「まちづくり」へと変化させていく必要があると講演をまとめました。
(講演会の写真は、人文学部大西慎也教授が撮影したものです。)