2025年度 大蔵谷ヒューマンサイエンスカフェ「時間がない!を卒業したい人のためのスケジューリング入門」が行われました

 2026年2月28日(土)午後1時からあかし市民図書館にて、地域研究センターの主催する一般向け講演会『大蔵谷ヒューマンサイエンスカフェ2025』が実施されました。
 今回は、人文学部の新居田久美子講師がビジネス講座として「時間がない!を卒業したい人のためのスケジューリング入門」を行いました。

 冒頭、新居田講師は「心理学の研究成果によれば、人は1日におよそ3万5000回程度、『意思決定』をしていると考えられます。意思決定の回数が多くなればなるほど、脳に負荷がかかり、集中力や判断力が鈍ってきます。スケジューリングや自己管理は、意志の強さ(根性、やる気)の問題ではなく、こうした負荷を上手に軽減し、決断・行動できる条件を自分で整えられるかにかかっています」と説明。

 その上で、まずは参加者同士、グループワーク形式で「困りごと」を共有するところから、講演が始まりました。会場に集まった人々は、4名ずつの5グループに分かれ、最初にアイスブレイク(自己紹介など)を行った後、グループで「時間がない」「困った」と感じた場面について話し合い、1グループずつ日々の困りごとを発表しました。

 「『キリのいいところまで仕事を片づけよう』と思って、かえって時間に追われる」「せっかく時間ができたのにスマホや動画視聴で浪費してしまう」など、どなたも似たような問題に困っている様子。そこで新居田講師は「時間があるないにかかわらず、なぜ動けなくなるのか」と切り出し、プロジェクターには「なぜ『あとでやる』になりがちなのか」という言葉が映し出されました。会場は「あるある!」の空気に包まれます。新居田講師によれば、こうした困りごとは、多くの場合、心理学的にその原因を説明できるのだとか。

 「人間の脳は『未来の自分』を過信しがちです。言いかえると、『今しなくても、後でできるはず』と考えてしまうんです。また、目先の快・楽を優先しやすいというのも人間の特徴です。有名な心理実験ですが、幼児の前にマシュマロを1つ置いて、『食べずに我慢できたら後で2つマシュマロをあげる』と言って退席すると、幼児はつい目の前にある1つを食べてしまいます(アメリカの心理学者ウォルター・ミシェルの実験)。程度の差はありますが、大人にも似た傾向があります。さらに完璧主義でありすぎて、着手が遅れるというタイプの人も少なくありません。わたしたちはまず、人間にこうしたバイアスがあることを理解し、その上で『自分をラクに動かす』ための環境を整えることが大切です」

 新居田講師によれば、大事なのは2点。1つは「最初の一歩を小さなものにして、『取りかかりやすさ』や『再開しやすさ』を優先した作業設計にすること」。完璧でなくてもいいので、小さく始めて、少しずつ積み上げることで、気持ちがついてくるのだそう。さらに1回の作業を長く継続するよりも、中断後スムーズに再開できるようにすることのほうが重要なのだそうです。特に有意義なのは「ポロモード・テクニック」と呼ばれる方法。25分作業を行い、タイマーが鳴ったらキリが悪くても止めて5分間休憩。どんなに中途半端でも中断するという行動は、ツァイガルニク効果(達成できなかった事柄や中断している事柄の方が記憶に残りやすいという心理現象)を引き出します。そのときに「休憩後、最初にやること」を1行メモしておくのがポイントです。これなら作業再開がスムーズになります。

 もう1つ大事なポイントは「作業に取りかかる前の『不安』を『これからやる作業にワクワクしている』と読み替える(思い込む)こと」。不安にとらえられて何も行動できなくなる前に、ポジティブな成功イメージを持ち、「失敗したら、それは成功するためのデータとして生かせる」と考えてみるのもひとつの方法です。

 「自分を動かせるかどうかは、意志の問題ではありません。自分で『自分を動かせるような設計』ができているかが大事なのです」というのが新居田講師の意見です。「阻害要因を取り除いておく、重要度と緊急度を判断して優先順位を付ける、周囲に向かって目標をあらかじめ宣言してしまう、などいろいろな方法があります。自分に合わないと思ったら途中で変えてもかまいません。いつ火がつくかわからない「やる気」を待ち続けることや「忍耐」だけで乗り越えようと無理をするのではなく、自然とそうした方向に自分が動いてゆくように環境を整えるのがいいやり方です」。

 また「半分あきらめる」のも大事なのだとか。これは「できない自分をあきらめる」というネガティブな意味ではなく、「自分ではコントロール不能な部分を抱え込まない」というポジティブな発想に立つもので、抱え込みすぎを減らすことによって「自分が本当に求めているもの」「心の奥底を満たしてくれるもの」を自分で理解し、より充実した人生を送ることが可能になるのだそうです。スライドに映し出された「抱えすぎを減らすと時間がもどってきます」という言葉に、参加者は深くうなずいていました。

 この後、参加者同士で2度目のグループワークが行われました。「困りごと」「つい起こるクセや勘違い」「ラクに動くための工夫」「半分あきらめるもの」を班ごとに書き出し、意見交換や全体での共有が行われました。初対面の参加者たちが「時間がない!を卒業したい」という共通の課題に向かって活発に語り合う姿は、講演の充実ぶりをあらわしているかのようです。15分近くにわたって行われたグループワークの後、新居田講師は「今日の講演が、自分をラクに動かすということがどういうことなのかについてみなさま一人一人が考えるきっかけになったら嬉しいです」と述べ、講座を締めくくりました。

【講演で紹介された参考文献】
堀田秀吾『ハーバード、スタンフォード、オックスフォード… 科学的に証明されたすごい習慣大百科 人生が変わるテクニック112個集めました』(SBクリエイティブ、2025年)
堀田秀吾,木島豪『脳科学×医学×心理で証明されたすぐやる人の習慣がわかる! 科学的に自分を思い通りに動かす セルフコントロール大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2022年)
諸富祥彦『人生を半分あきらめて生きる』(幻冬社、2012年) エヴァ・ファン・デン・ブルック,ティム・デン・ハイヤー『勘違いが人を動かす 教養としての行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2023年)
塚本 亮『「すぐやる人」と「やれない人」の習慣』 (アスカビジネス、2017年) フランチェスカ・シリロ『どんな仕事も「25分+5分」で結果が出る ポモドーロ・テクニック入門 ポモドーロ・テクニック入門』(CCCメディアハウス、2019年)

 地域研究センターでは、地域研究・社会貢献の一環として『大蔵谷ヒューマンサイエンスカフェ』を継続的に行っています。 2026年度も多くの方々のご参加をお待ちしています。

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