オンラインくずし字解読講座①

 神戸学院大学地域研究センター明石ハウスでは、2019年度に開催した「くずし字解読講座」を引き継ぐ取り組みとして「オンラインくずし字解読講座」を企画しました。Youtube「明石ハウスチャンネル」にて、不定期に配信していく予定です。ホームページでは、動画の内容の補足やこぼれ話なども掲載します。

「変体仮名」とは

 第一回は、「くずし字」の基礎となる「変体仮名(へんたいがな)」について解説します。
 明治33年(1900年)、小学校で教えるひらがなが「1音につき1字」に定められました。それ以前のひらがなには、「1音につき複数の文字」、つまり「ア」音ならば「あ」以外の字が存在したのです。
 そもそもひらがな(仮名文字)は、漢字を崩した形(草書)から生まれた字です。仮名文字の元となった漢字を「字母(じぼ)」と呼びます。現在の「か」の字母は「加」です。しかし昔は、「可」「嘉」「閑」などを字母とする仮名文字も、「か(加)」と同様に「カ」音を示すものとして用いられていました。
 このような「今は使われていない仮名文字」は、現在「変体仮名」と呼ばれています。そして、この「変体仮名」の存在が、現代の人が江戸時代以前の字を読む上で、非常に大きな障害となっています。くずし字、特に江戸時代に出版された本を読むためには、よく使われる「変体仮名」を1音につき2~3字ほど知っておく必要があります。

江戸時代の出版文化

 いわゆる「くずし字で書かれた昔のもの」には、様々な種類があります。今回の動画では、「肉筆資料」と「印刷されたもの」という二つの分類を紹介しました。
 江戸時代は、出版文化が広く一般に浸透した時代です。室町時代以前にも、印刷技術自体は存在していました。しかし当時は、仏教寺院という限られた場で、仏典などの仏教に関連する書物が印刷されるのみでした(日本仏教と印刷の関わりは古く、奈良時代の遺物として有名な「百万塔陀羅尼」も、印刷された経典です)。「物語」や「和歌」などの日本文学は、手書きの写本という形態で、それにアクセスできる限られた人々の間で伝えられていました。
 江戸時代になると、大衆向けの商業出版を生業とする人々が現れます。『源氏物語』などの平安文学の他、『方丈記』『徒然草』などの中世期の書物、更にはリアルタイムの創作物である俳諧(俳句)や浮世草子(小説)などの本が、次々に出版されるようになりました。出版書肆(本屋)の他にも、高価な本を比較的安値で貸し出す「貸本屋」という業態も出現します。それまで一握りの上流階級のものであった読書は、一般庶民の娯楽になりました。
 寺子屋の普及も相まって、識字率も高かったと言われています。しかし、漢字が読める人は少なかったようです。江戸時代後期の出版物のうち、特に娯楽的・大衆的なものには、総ルビ(全ての漢字に振り仮名がある)の本も多く見られます。言い換えれば、変体仮名さえ覚えてしまえば、こうした本を読むことができるのです。

タイトルとURLをコピーしました